高円寺の「会話お断り」カフェ。私語は筆談、オーダーも小声。そこまでこだわる理由とは?
朝日新聞デジタル 4月16日(木)15時57分配信

高円寺の「会話お断り」カフェ。私語は筆談、オーダーも小声。そこまでこだわる理由とは?
向かい合う席で、別々の世界に浸る(写真:石野明子)
 JR高円寺駅南側に延びる高円寺パル商店街。その一画に「会話お断りのカフェ」として知られる『アール座読書館』がある。その扉にはこんな張り紙が……。
「店内は静寂を楽しむ空間となっておりますため、他のお客様がいらっしゃる時は声高なお声、小声でも長いお話をお控えください」
 強気な指示に面食らい、入店をためらう人がいるかもしれない。しかし、ここは緊張を解きほぐし、感覚を“開く”人のための空間。店内にはたくさんの木々が置かれ、水槽の水音が心地よく響いている。テーブルや椅子はアンティークで、席の大半は一人用だ。小声で飲み物のオーダーを済ませた後は、ゆっくりとした時間の流れに浸りながら、自分の世界に入っていくことができる。

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「静かな所でしばらく頭を休めていると少しずつ感覚が開いてきて、普段見過ごしているような微かなことが感じられるようになる気がします。なので、思考を止めて感覚を開ける場所があればいいなと思っていたのですが、そういう空間がないので自分でつくりました。店内に本を置いていますが、読書は感覚を開くのに有効な手段の一つに過ぎません」。そう話すのはオーナーの渡邊太紀(たいき)さん(45)。
 渡邊さんが「会話お断り」という店のコンセプトを周囲に話した時、商売になるはずがないと言われたそうだ。渡邊さん自身も、こんな空間が受け入れられるのか不安だったという。戸惑う人がいるかもしれないと覚悟の上で、2008年にオープンしたが意外とスムーズに受け入れられた。大半の客は一人で来るが、2人連れでも一人は本を読み、一人は考え事にふけるなど、それぞれの時を過ごす。オープン当初からの常連でも、会話を交わす機会がないため、どんな人か全く知らないなんてことも。
「勉強や仕事をする人もいますが、ふと手を止めてぼーっとしたり、本を読み始める姿を見ると『しめしめ』と思ったりしますね(笑)。短くても、モノを考えない時間を過ごして欲しいと思っていますから」
 しかし、静寂に包まれた空間ではあるものの、各テーブルに置かれたノートの中には、ひそやかながらも濃密な言葉が数多く書かれている。渡邊さんが軽い気持ちで置きはじめたノートは、約60冊を重ねるまでになった。そこには、生きる上での悩みや苦しみ、誰かを想う気持ち、前向きに進もうとする決意など、名も知らない人の言葉がたくさん詰まっている。「ノートを置いておいただけなのに、いつしか人生に影響を与えるような重みのある内容もつづられるようになったんです。火事になったら、真っ先にこのノートを持って逃げます」と言うほど、店にとって貴重な財産だ。
 静けさの中で張り詰めた神経を緩ませ、感覚に身を委ねた状態でつづられた言葉には、人をひきつける不思議な力がある。それらの言葉が心に深く突き刺さるのは、読み手の側もまた、感覚を開いているからだろう。
「気が張っている時と休まる時がバランスよくあればいいのですが、ずっと張り続けている状態はつらいもの。人には緊張を緩める空間が絶対に必要」と渡邊さん。その思いを貫くためにも「会話お断り」の空間を維持していくつもりだ。

■オススメの3冊
『まど・みちお全詩集』(まど・みちお)
散文詩や童謡など、まど・みちおの全詩作品を発表順に収録した一冊。「ものすごくシンプルな言葉なのですが、本当に素晴らしいんです。一番大好きな詩集」

『アルフィーとフェリーボート』(チャール・キーピング)
テムズ川の川岸、砂糖工場の裏に住むアルフィー少年と、毎週金曜にやってくるバンティおじさんが語る冒険の物語。「エッチングがとても美しい絵本です。僕が幼稚園の時から持っているもので、個人的に思い入れのある一冊」※amazonは中古品のみの扱い。たぶん絶版

『月と惑星』(ジョセフ・サディル)
アポロ11号で人類が初めて月面に着陸する以前に出版された、月と惑星にまつわる大型本。「精緻(せいち)なイラストで描かれた、月や惑星の風景にすごくわくわくさせられ、想像力がかきたてられます」※amazonは中古品のみの扱い。絶版

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アール座 読書館
 東京都杉並区高円寺南3-57-6 2F
 03-3312-7941
 http://r-books.jugem.jp/

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