空き資源活用のアイデア

まち全体を「一つのホテル」に 古民家に宿泊、土地を「旅」する

藤原 岳史(NOTE 代表取締役 一般社団法人ノオト 理事、NOTEリノベーション&デザイン 代表取締役)

2009年に兵庫県篠山市で設立され、60棟以上もの古民家再生・活用を手掛けてきた一般社団法人ノオト。再生した古民家を活用し、地域の暮らし・文化を体験するツーリズムを展開。農村の日々の暮らしが持つ創造性に光を当て、地域再生を目指す。

篠山市に点在している5軒の古民家をリノベーション。全体を「一つのホテル」に見立て、高級感あふれる宿泊施設「篠山城下町ホテルNIPPONIA」を展開している

栗や黒豆の名産地「丹波篠山(ささやま)」として知られる兵庫県篠山市は、四方を山林に囲まれ、市街地中心部に風情のある城跡を残す小都市だ。かつては京都への交通の要所として栄えたこのまちも、現在は人口減少や空き家の増加という問題に直面している。

そんな篠山市で、地元出身の事業家が手掛ける古民家ホテルが評判を呼んでいる。NOTEの代表取締役・藤原岳史氏は、数多くの古民家を再生し、地域の活性化につなげてきた。

「宿泊」を「体験」に変える

NOTEが運営する「篠山城下町ホテルNIPPONIA(ニッポニア)」は、築100年超を含む5軒の古民家をリノベーションし、高級感あふれる宿泊施設にしている。ユニークなのは、各棟が市内に分散していること。受付があるのは1棟のみで、そこから最も遠い宿泊棟まで、およそ2kmの距離がある。

「車での送迎は用意していますが、徒歩でのんびりと向かわれるお客様のほうが多いですね」と藤原代表。かつて城下町だったことを示す整然とした街路には、家屋や商店が軒を連ねる。

「まちを歩いて風景に触れ、生活の場であった古民家で眠りにつく。単に『ホテルに泊まる』のではなく、『篠山のまちで過ごす』という体験を提供しています」NIPPONIAはいわば、まち全体をホテルにする取り組みだ。

もともとNOTEは、篠山市の郊外に位置する限界集落、丸山地区において、「集落丸山」という古民家ホテルを手掛けていた。「集落丸山」が古民家のリノベーションによって限界集落を再生した実績となり、それを市内の他エリアにも広げることで、「まち全体をホテルにする」というアイデアへとつながっていった。

制度面の後押しもあった。篠山は国家戦略特区であり、NIPPONIAはフロント設置の規制緩和を受けている。現行の法令では、宿泊施設の各棟にフロントを設けなければならないが、規制緩和により、歴史的建築物を宿にする場合は1棟に設ければよくなった。

NIPPONIAのホテルスタッフは、23時には帰宅する。しかしスタッフの住居は市内にあり、宿泊客はフロントで受け取る携帯電話で夜間のサービスを依頼することもできる。事務的な「ホテルスタッフ」ではなく、「篠山の住人」にもてなしを受けていることが実感できる仕組みだ。

古民家の不動産価値は0円

NIPPONIAは、2015年10月にオープン。提携している宿泊予約サイト「一休」を見ると、予約の盛況ぶりがわかる。客単価は3万円程度からと、都心の一流ホテルに並ぶ価格だが、篠山でしか味わえない「宿泊体験」は多くの人を惹き付けている。

藤原代表によると、事業化にあたっては、2つの課題があったという。

藤原 岳史(NOTE 代表取締役、一般社団法人ノオト 理事、NOTEリノベーション&デザイン 代表取締役)

「一つは、古民家それ自体には資産価値がないこと。日本では、土地の価値は残っても、建物の価値は時間とともに失われてしまうので、リノベーションに必要な融資はとても受けられません。これはファンドをつくることで解決しました。それまでに古民家再生の実績を積んでいたから、実現できたのだと思います」

もう一つの課題は、古民家の所有者や地域の人たちとの交渉だった。

「熱意を込めて臨んだのですが、当初は理解を得るのに難航しました。ただ、本当の問題は私たち自身にあり、どこかに『やってあげている』という意識があったんです。それに気付いてからは、呼び掛けも変わっていきました。一人の賛同が得られると、『篠山のためなら私も』と、手を挙げてくれる方が一気に増えました」

価格設定も気になるところだ。強気な額だが、これも長期的な視点に基づいたものだという。

「古民家の宿は1泊数千円のところが多いのですが、それではフル稼働しないと採算がとれません。私たちの戦略は、空き室が出ても運営を維持できる価格に設定し、その価格に見合うだけの体験を提供すること。篠山が育んできた家屋や街並み、観光地ではないからこそ感じられる生活の息吹は、その額に見合うものだと考えています」

料理は、関西フレンチ界の重鎮・石井之悠シェフが担当。丹波、但馬、兵庫の地元食材をふんだんに使用したメニューを提供する

篠山での経験を活かし、全国へ

藤原代表が目指すのは、古民家などの歴史的建築物の活用を通じた地域の再生だ。NIPPONIAのような施設で雇用を生み、周辺の産業にも利益を生み出す。その志は篠山だけでなく、日本全国に向けられている。

「最初に篠山で取り組んだのは、故郷で成功できなければ他の土地で何を言えるのかという思いがあったからです。篠山での経験を、これから全国へ広げていきます」

歴史的建築物の再生・活用では、将来的には3万棟(賃貸・転売を含む)を目標に掲げる。最近の動きとしては、和歌山県の旧酒蔵などの古民家再生プロジェクトがあり、他の自治体からの引き合いも増え続けている。

藤原代表は、「地域再生にあたって、著名な観光資源は必ずしも重要ではない」と言う。

「それぞれの土地に、受け継がれている伝統や生活があります。例えば、里山で聞こえる虫の音や鳥の声、夜の暗闇にも価値があり、その中で過ごすのは特別な体験になります。何もなくても、再生はできるんです」

NOTEの理念は、日本人が捨ててきたものを拾い集め、再生すること。生活の場とそこに根差した文化をNOTEし(書き留め)、後世につなぐために、藤原代表は全国を奔走する。

城下町の情緒あふれる篠山市。「NIPPONIA」では、その土地の歴史や文化にとけこむような「旅」を体験できる

藤原 岳史(ふじわら・たけし)
NOTE 代表取締役
一般社団法人ノオト 理事
NOTEリノベーション&デザイン 代表取締役

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